前回の続きから
地下の霊安室から、ご遺体を搬送するためのストレッチャーを持ち出す際、解剖待ちのご遺体がないか、確認をした後、そのエリアを出るにはドアが三つもあった。夜勤帯も日勤帯も人手不足のため、二人で取りに行かせてもらえず自分ひとりしかいない。
そのため、ストレッチャーを片手で持ち、もう片方でドアを開ける。
当時は自動ドアではなく、取っ手の付いたドアで、内開きだった。
内開きのため、一刻も早く自分は、霊安室から出たいのに、自身の体は霊安室の中で、まずドアを左手で開け、閉まらない様に抑え、ストレッチャーを右手で出していく。ドアと床の隙間に挟み込むタイプのストッパーもあったが、その動作を増やしたくなかった。霊安室を出ても、夜も昼でも不気味な狭い控室があり、その控室のドアも内開きで、また同じ要領でストレッチャーを出す。
その控室のドアの先は、解剖室に続くかなり狭い廊下となっており、ストレッチャーが非常に出しにくかった。しかもその廊下は、控室の出入り口前はスロープになっており、そのため控室と廊下には段差が生じている。解剖室へはそのスロープはスムーズに進める役目を果たしているが、控室へは障害となっている。
とにかく早く出たいため、ドアを開けながら片手で、急いでストレッチャーを出すと何度も自分の足をストレッチャーでひいた。当時は、パンストにナースサンダルというスタイル。かなり痛かったが、それより、ここから一刻も早く出たい気持ちで、どうでもよかった。
その廊下に出ると、ドアは左側にあるため、控室から出す際には、右側にストレッチャーを出さないと、内開きのドアは開けられない。だが、控室前の廊下がスロープになっているため、右側に出したいのに、坂を下るように、ストレッチャーは左に行こうとする。控室のドアを押さえながらなので片手で操作している。しかもかなり狭い廊下で、ストレッチャーが度々、壁に当たる。何とかストレッチャーを出し切ると、ストレッチャーを腰辺りで押さえながら、ようやく廊下のドアを開け外に出れる。最後のドアを出る際は、下り坂のスロープになっているので、ストレッチャーの勢いはすごく、私の足も勢いよく踏まれた。
基本これは一年目の仕事だが、優しい先輩は死に化粧を施すか、ストレッチャーを取りに行くかを選択させてくれた。
夜の霊安室など怖くも何ともない人もいるのだろうが….
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